
今まで積み上げてきたものの集大成として、あるいは新たな夢として。開業を目指している人の中には物件を賃貸するのではなく、自宅での店舗開業を検討している人もいるのではないでしょうか。
しかし一般的な住宅と違い、自宅に店舗を併せ持つ「店舗併用住宅」には、法による一定の制限があり、気をつけなければならない点がいくつかあります。
この記事では、自宅を店舗併用住宅へリフォームし開業する場合、どのような点に注意が必要か、店舗併用住宅へリフォームする際の【基本】【注意点】【ポイント】についてご紹介していきます。
店舗併用住宅の【基本】を知ろう
「店舗併用住宅」とは「自宅+店舗」
店舗併用住宅とは、「住宅と店舗」が一体となった建物のことです。ほかにも店舗付住宅、店舗兼住宅などと呼ばれます。居住部分と店舗部分は区分され、それぞれ独立して利用することができます。なお、住宅のみの目的で使う建物は「専用住宅」と呼びます。
店舗併用住宅で開業する事業形態は、カフェ・レストランなどの飲食業から、雑貨・服飾などの販売業、美容院・理容院などのサービス業、教室系やサロン系、オフィス・事務所など多種多様です。
また店舗規模も幅広く、一般的には店舗併用住宅の1階部分を店舗に、2階以上を自宅として使用される場合が多く、ひと部屋だけを店舗にしたり、同じ階に間仕切り壁でわけられているのも店舗併用住宅となります。
ただし店舗併用住宅には間取りや面積のルールがあり、住宅に関する各種制度を適用する場合、住宅部分の床面積が全体床面積の半分以上を占めなければならないとされていることが多いです。
▼「併用住宅」と「兼用住宅」の違い▼
「住宅と店舗」が一体となった建物には併用住宅のほかに兼用住宅があります。 兼用住宅は、併用住宅のうち、住宅部分と非住宅部分が構造的にも機能的にも一体となっていて、用途的に分離しがたいものをいいます。
図のように、兼用住宅は併用住宅に含まれ、中で行き来できるかどうかで区分されます。 |
「店舗併用住宅」のメリット・デメリット
自宅を店舗併用住宅にリフォームし店舗開業をする場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
【メリット】金銭面と利便性
- 家賃などの費用を抑えられる
- 通勤時間がない
- 自宅の様子をすぐ確認できる
店舗併用住宅で店舗開業をする最大のメリットは、店舗物件にかかる家賃などの費用を抑えられることです。
店舗経営のうえで家賃などの固定費は大きな負担となりますが、自宅を利用するなら毎月の家賃はかかりません。それ以外に、賃貸物件の契約に必要な保証金や仲介手数料などの初期費用もかからず、月々の運営費も安くすむため、余裕をもった店舗経営のスタート、そして長く安定した経営ができる可能性が高まります。
また店舗併用住宅の場合、通勤時間がないため、日々の限られた時間を有効かつ効率的に使えます。お子様や高齢者と同居する場合は、緊急時すぐに自宅に戻れるというメリットもあります。使える時間が増えるということは、心のゆとりにもつながるでしょう。
【デメリット】区切りと立地条件
- 公私の区別がつきにくい
- 間取りに制約がある
- 立地条件が集客に向かない可能性が高い
店舗併用住宅は、自宅に店舗が併設されていることで、自宅と店舗の行き来がすぐできる反面、仕事場と自宅が近いために、その環境にストレスを感じてしまう場合があります。プライベートな時間でも仕事が頭から離れず落ち着かなかったり、日常生活をするうえでも「近隣住民・通行人=お客様の目」を常に気にしたりすることになるでしょう。
加えて、店舗併用住宅には間取りや面積の法的なルールがあり、自宅と店舗を自由に配分できません。店舗を併設することで自宅部分が狭くなるため、どちらも快適に過ごせるような工夫が必要になります。同居する家族がいる場合は、不特定多数の人が訪れる状況にストレスがかかる可能性を考え、家族への配慮も必要です。
また、自宅が静かな住宅地にある場合、駅前や大通りなどの人目につきやすい立地と比べ、人通りが少なく駅からの距離が遠い、道が細い、駐車場の確保が難しいといった立地条件が集客に向かない可能性があります。さらに自宅の住所を公開することになるため、堂々と宣伝することが難しいという点もあります。
業種やどれくらいの集客・売上を求めるかによっても変わりますが、早期に認知してもらい集客につなげるための工夫と努力が必要です。
▼トラブルは事前回避!近隣には細心の注意を▼
突然、自宅近所に店舗ができ、不特定多数の人が訪れるようになると近隣にお住まいの方は不安に感じます。これから先も長く住むであろう自宅の一部を店舗にすることは、賃貸物件に比べて、事前の計画や周囲の理解が必要です。 近隣住民とのトラブルを極力避けるためには、普段からコミュニケーションをとることが大切です。良好な関係が築けるよう日常のあいさつだけでなく、町内や周辺地域のイベントへ積極的に参加しましょう。また、開業について理解を示してもらえるよう計画の段階から丁寧に伝え、開店時には案内文を出すなど事前の周知を行いましょう。 また、予想を超える人が集まり出入りが多くなると、交通に影響を与えてしまったり、顧客が道路や私有地に駐車してしまったり、近隣トラブルにつながる可能性があります。必要に応じて駐車場の確保も検討しましょう。 そのほか騒音防止、適切なゴミ出し、さらに飲食業の場合であれば火気の取り扱い、臭いや害虫などの対策とルールを決め、店舗を利用する顧客にも近隣に迷惑となるような行為の禁止を徹底し、近隣住民の生活環境にも十分に配慮しましょう。 |
リフォーム前に知っておきたい【注意点】とは
自宅に店舗を併せ持つ「店舗併用住宅」には、法による一定の制限があり、気をつけなければならない注意点があります。自宅での店舗開業を検討する際は「店舗併用住宅を建築する決まり」をしっかり確認をしておきましょう。
1)建築には「用途地域」の制限がある
自宅で店舗開業を検討する際、まず初めに確認しなければならないのが「用途地域」です。
市街地のほとんどの場所には、住居環境の保護や商工業などの利便増進を図るため、都市計画法や建築基準法により、その土地に建設可能な建物の種類や用途などの制限があります。この制限のことを「用途地域」といいます。
用途地域は現在「住居系8種類」「商業系2種類」「工業系3種類」の計13種類に分けられています。
【用途地域一覧表】
住居系 | 低層 | 第一種低層住居専用地域 |
第二種低層住居専用地域 | ||
中高層 | 第一種中高層住居専用地域 | |
第二種中高層住居専用地域 | ||
その他 | 第一種住居地域 | |
第二種住居地域 | ||
準住居地域 | ||
田園住居地域 | ||
商業系 | 近隣商業地域 | |
商業地域 | ||
工業系 | 準工業地域 | |
工業地域 | ||
工業専用地域 |
店舗併用住宅は、「工業専用地域」以外の用途地域ならば建築可能ですが、業種や面積の制限があります。特に「第一種低層住居専用地域」と「第二種低層住居専用地域」の2つの住居専用地域ではとても厳しい規制があり注意が必要です。
具体的にはそれぞれ以下のような特徴と規制があります。
「第一種低層住居専用地域」
用途地域の中でも最も厳しい規制のある地域で、低層住宅のための良好な住環境を保護するための地域です。1~2階建てを中心とした低層住宅がゆったりと建ち並ぶような閑静な住宅街が多いです。
◎建築可能な建物
住宅、小中学校、診療所、50㎡以下の小規模なお店や事務所を兼ねた住宅など ×建築不可の建物 単独の店舗や事務所、ホテル、病院、コンビニエンスストアなど |
適用される制限
・絶対高さ制限 10mまたは12m ・道路斜線制限(道路側に面した建物部分の道路幅に基づいた高さの制限) ・北側斜線制限(北側に面した建物部分の高さの制限) ※隣地や道路の採光を確保するために高さに制限が設けられています。 ・外壁後退(敷地境界線から建物までの最低距離) ・日影制限(軒高7m以上または地上3階建以上の建物に適用) ・建ぺい率(土地の面積に対して建物の面積が占める割合) ・容積率(土地の面積に対して建物の総床面積が占める割合) ・敷地面積の最低限度(土地を細分化する際の制限) |
店舗併用住宅の形態が併用住宅(中で行き来できない)の場合、あくまで単独扱いになるためこの地域で建てることはできませんが、下記の条件を満たす兼用住宅(中で行き来ができる)であれば、店舗や事務所などを計画することも可能です。
ただし、例えば診療所はもともと第一種低層住居専用地域で建てられるので併用住宅の形態をとっても建てることが可能になります。
住宅と兼用できる部分(非住宅部分)の用途については以下の条件を満たさなければなりません。
【店舗規模】 |
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【店舗用途】※一部適用除外あり |
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用途が1~7のいずれかであっても、運営形態や使用する機械の原動機の容量などによって法律上建てられない場合があります。
「第二種低層住居専用地域」
主に低層住宅の良好な住環境を保護するための地域です。
建築できる建物の種類や高さの制限は第一種低層住居専用地域とほぼ同じですが、制限が少し緩和され、コンビニエンスストアや小規模な飲食店など単独の店舗を建てることが可能になります。(床面積や階数などの制限あり)
◎建築可能な建物
住宅、小中学校、診療所など第一種低層住居専用地域で建てられるもの 《2階建て・店舗床面積が150㎡以下の一定の店舗》 〇日用品販売店 〇喫茶店 〇理髪店 〇建具屋 〇食堂 〇学習塾……などの各種サービス業を営む店舗 《2階建て以下で作業場の面積が50㎡以下の工場(原動機の制限あり)》 〇自家製造販売のパン屋 〇洋服店 〇豆腐屋…など ×建築不可の建物 事務所、ホテルなど |
そのため兼用住宅に加え、一定の条件を満たせば併用住宅の形態をとって建てることも可能になります。
このように用途地域の制限によって、建てられる店舗併用住宅も違ってきます。自宅を店舗併用住宅にリフォームする場合、まずは自分が住んでいる地域がどの用途地域に指定されているかを事前に確認しましょう。
用途地域は各自治体の窓口、またはインターネットで確認することもできます。ほとんどの自治体がホームページで公開しており、「(調べたい都道府県名や市町村名)+ 用途地域(もしくは都市開発図)」で検索ができ、用途地域が地図上で色分けされて表示されます。 しかし、指定されていない地域には該当する色が塗られていなかったり、場合によっては2種類の用途地域が指定されていたりすることもあります。また地区計画や建築協定と呼ばれる規制によって、店舗の建築が制限されている地域もあります。 インターネットだけでは分からない細かい条件などもあるため、各自治体の窓口で担当者に直接確認するほうが分かりやすく確かでしょう。 |
2)開業地域の徹底リサーチをする
今はインターネットの情報網が発達し、業種によっては必ずしも目立つ場所になくても経営のできる時代。
しかし、店舗経営で生計を立てていく、あるいは趣味の範囲であっても、一定以上の売上を求めて開業する場合、周辺地域にそのニーズがなければ事業を軌道に乗せ長く続けることが極めて難しくなります。
一度開業すると店舗の場所は簡単には変えられません。やみくもに自宅での店舗開業を目指す前に、まずは地域に根付くためにも地域のことを知る必要があります。
地域人口・男女別年齢層・手がける事業のニーズの有無や競合店(経営のしかたや客入りなど)、時間帯・曜日別の通行量、そのほか考えられるだけのことを徹底的にリサーチしましょう。
3)店舗部分は「住宅ローン」の対象にならない
リフォームを行うためには、それなりにまとまった資金が必要です。必要な資金を確保するために、ローンを検討する方も多いのではないでしょうか。

店舗と住宅が一つになった店舗併用住宅にリフォームする場合、原則として住宅ローンを利用できるのは住宅部分のみで、店舗部分は対象となりません。
住宅ローンはあくまで居住用の住宅のみを対象としているため、事業を目的とした店舗部分は「事業者ローン」や「事業融資」として申し込む必要があります。
ただし、金融機関によっては店舗部分が建物全体の2分の1を超えない場合、店舗部分も住宅ローンとして取り扱ってくれる可能性もありますので、複数の金融機関に問い合わせてみましょう。
店舗併用住宅にリフォームする際の【ポイント】
一般的な住宅に比べ複雑なつくりの店舗併用住宅。実際に店舗併用住宅へリフォームする場合、間取りやデザインなどはどのように考えていけばよいでしょうか。
店舗を設計する際に注意すべきポイントについてご紹介していきます。
1)コンセプトを明確に
店舗併用住宅にリフォームする場合に大切なのは、どんなお店にしたいか、内装・外装の方向性やデザインをイメージし、コンセプトを決めておくことが大切です。
その際、重要なのが事前にリサーチした情報です。店舗のイメージを優先するのはよいのですが、客層にあった店舗でなければ利益を得ることは難しくなります。入念にリサーチした情報を含めどんなお店にするかを検討しましょう。
またコンセプトを決めておくことで完成後のイメージがしやすく、リフォーム業者との打ち合わせや工事もスムーズにすすめることができるでしょう。
2)間取りとデザインに注意する
限られた空間の中で、店舗と住宅それぞれの機能を活かしながら、働きやすさと住みやすさを両立するような設計にする必要があります。
店舗併用住宅の間取りやデザイン面で意識したいポイントは「集客力」「利便性」「セキュリティー面」の3つです。
「集客力」
・視認性がよく顧客が入りやすい1階部分に店舗を設ける ・外から店内の状態が確認できるよう、道路側を大きな窓サッシにするなどの工夫をする ・住居部分の生活感が外から見えない工夫をする 「利便性」 ・住居部分と別に店内にも顧客や従業員のトイレを設置 ・ベビーカーや車いすなどの来店に配慮したバリアフリー設計 ・必要にあわせて駐車場・駐輪場を確保 「セキュリティー面」 ・店舗と住宅の動線(入口)を分け、それぞれの防犯性を高める ・在庫管理や従業員の休憩などのためのバックヤードを設置 ・釣銭や商品在庫などのための防犯カメラや金庫、セキュリティーを設置 |
上記はあくまでも一般論です。店舗は業種・業態・周辺環境によって適切なつくりかたがあります。検討している業種にあわせて、柔軟に調整するようにしましょう。
また 自宅の一部を店舗にすると住居部分や収納スペースが大幅に少なくなるので住居部分の間取りにも注意が必要です。
3)「店舗設計」にも詳しい業者に依頼する
いざリフォームをしようと業者を調べてみると、リフォーム業者は数多く、業者選びで迷う方も多いのではないでしょうか。
店舗併用住宅は一般的な住宅とは異なります。法による一定の制限があり、用途地域や地区計画などの専門的な知識も必要となることから、高い技術と設計力を持ち店舗設計にも詳しい業者に相談することをおすすめします。
その際、ハウスメーカーや建設会社、工務店など複数社に見積もりを依頼して必ず「比較検討」をすることが重要です。
複数のリフォーム業者の設計プランを比較すれば、設計力や建築費の違いが見えるだけでなく、親身に相談に乗り的確なアドバイス・提案をしてくれる経験豊富な担当者を選ぶことができます。リフォームを円滑にすすめるうえで担当者との相性も意外に大切なポイントです。
後悔しない、失敗しないリフォームにするためにも、希望をしっかりヒアリングした上で、業種や立地、予算に応じた最適なプランを提案してくれるリフォーム会社を選ぶことが大切です。
まとめ
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自宅を店舗併用住宅へリフォームし開業する場合、たくさんのハードルがありますが、
ポイントをしっかりおさえ、地域に根付いた店舗を目指して理想とする店舗併用住宅を叶えましょう!